【技術コラム Vol.11】蒸着装置とPVDのもう一つの世界― スパッタだけではない物理蒸着の技術 ―これまでの薄膜プロセスシリーズでは、スパッタ、CVD、ALDと成膜技術の代表例を紹介してきました。今回は、同じPVD(物理蒸着)に分類されながらも、スパッタとは異なる特徴を持つ 蒸着(Evaporation)装置 を取り上げます。
■ 蒸着とはどんな成膜方式か:蒸着は、材料を加熱して蒸発させ、その蒸気を基板表面に付着させて膜を形成する方式です。基本原理は非常にシンプルです。
1. 材料を加熱して蒸発させる
2. 蒸発した粒子が直進飛行する
3. 基板表面で凝縮して膜になる
スパッタのようなプラズマを使用しないため、最も基本的な真空成膜方式と言えます。
■ スパッタとの違い:同じPVDでも、蒸着とスパッタは成膜メカニズムが大きく異なります。
| (項目) |(蒸着)|(スパッタ)|
|成膜方法 |加熱蒸発|イオン衝突|
|粒子エネルギー| 低い | 高い |
|装置構造 |シンプル| 複雑 |
| 膜密度 |やや低い| 高い |
蒸着はシンプル・高速・低ダメージ、スパッタは高密度・高密着という特徴があります。
■ 蒸着装置の代表方式:蒸着装置には主に2種類あります。
① 抵抗加熱蒸着:ヒーターで材料を直接加熱し蒸発させる方式。
特徴:* 構造がシンプル* 小型装置に適する* 金属・有機材料に多用
② 電子ビーム蒸着(EB蒸着):電子ビームで材料を局所加熱する方式。
特徴:* 高融点材料に対応 * 高純度成膜が可能 * 光学・半導体用途で広く利用
■ 蒸着装置設計の本質は「飛び方」:蒸着装置の設計で最も重要なのは、蒸発粒子の“飛び方”を設計することです。蒸発粒子は真空中を直進します。つまり、
* 遮蔽物があれば膜が付かない
* 角度によって膜厚が変わる
* 距離で膜厚が変わる という特性があります。
■ 設計の勘所① 膜厚分布制御:蒸着装置では、* 蒸発源位置 * 基板距離 * 基板回転
によって膜厚分布を制御します。そのため多くの装置では基板回転機構 が採用されています。
■ 設計の勘所② 大面積成膜の難しさ:蒸着は直進性が強いため、
* 大面積基板 * 複数基板同時処理 では膜厚均一性が課題になります。
その解決策として * 多源蒸着 * 基板揺動 * 遮蔽板設計 が用いられます。
■ 設計の勘所③ 汚れとの戦い:蒸着装置では、* チャンバー内壁 * 遮蔽板 * 治具
に材料が付着します。そのため設計段階で清掃・交換・メンテナンス性 を考慮することが重要です。
■ 蒸着が活躍する分野:蒸着は現在も多くの分野で活躍しています。* 有機EL(OLED) * 光学薄膜 * センサー * 太陽電池 * 電子部品 特に有機ELでは、蒸着技術が不可欠です。
■ 蒸着は「シンプルだが奥が深い」:蒸着は原理が単純な分、装置設計の工夫が結果に直結します。* 配置 * 角度 * 距離 * 回転 といった幾何設計が膜品質を決めます。
■ PVD技術の全体像:ここまでの流れを整理すると、
* 蒸着 → シンプル・低ダメージ
* スパッタ → 高密度・量産
* CVD → 化学反応
* ALD → 原子層制御
という成膜技術の広がりが見えてきます。
■ 次回予告(Vol.12):次回はシリーズの重要テーマ、「エッチング装置と排気設計」を解説予定です。