【真空装置パーツ解説シリーズ Vol.36】真空ポンプ⑥油拡散ポンプ(2066号)

油拡散ポンプ(ディフュージョンポンプ)― 高真空技術を支えた名機 ―
現在の半導体製造装置では、ターボ分子ポンプやクライオポンプが高真空を作るメインポンプとして広く使われています。しかし、それ以前の高真空技術を長年支えてきた代表的なポンプが油拡散ポンプ(ディフュージョンポンプ)です。
油拡散ポンプの歴史は古く、原型は1910年代に誕生しました。その最大の特徴は、内部に高速回転する機械部品がないことです。ポンプ下部のヒーターで専用油を加熱して蒸気にし、ノズルから高速の油蒸気ジェットとして噴射します。このジェットが真空チャンバーから入ってきた気体分子に運動量を与え、排気側へ送り出すことで高真空を作ります。噴射された油蒸気は、冷却されたポンプ内壁で凝縮して液体に戻り、再び加熱されます。この循環を繰り返すことで、シンプルな構造ながら大きな排気速度を実現しました。

一方、大気圧から直接排気することはできないため、ロータリーポンプなどによる荒引きが必要です。また最大の弱点は、油蒸気が真空チャンバー側へ逆流するバックストリーミングです。半導体製造では微量の油分も汚染原因となるため、よりクリーンなターボ分子ポンプやクライオポンプへ主役が移っていきました。
それでも、構造が単純で振動が少なく、大排気速度を得やすいという長所から、現在も真空炉、大型コーティング装置、研究設備などで活躍しています。

まとめ

油拡散ポンプは、現在の半導体製造装置では主役ではありません。しかし、長年にわたり高真空技術を支え、現在の真空装置技術へとつながる道を切り開いた「高真空ポンプの名機」です。若い設計者にも、ぜひ知っておいてほしい真空技術の一つです。

次回予告

次回は「Vol.37 イオンポンプ ― 電気の力で超高真空をつくるポンプ」をご紹介します。